音もたてず降り立ち、跡も残さない鳥

インディオの言葉

さっそくご紹介したい最初の本です。

○著 者:長倉洋海
○題 名:『鳥のように、川のように 森の哲人アユトンとの旅』
○出版社:徳間書店
○発売日:1998.10

フリーフォトジャーナリストの長倉洋海さんが、

ブラジルのインディオの自立に尽力するインディオのアユトンさんと

南米大陸各地の先住民、インディオを訪ねます。

大自然と生きるインディオと寝食を共にして交流した心温まる記録です。

長倉さんならではの視点を通して、人間の本質を垣間見れたと感じた本でした。

インディオが大切にしている叡智と、スッと体の中に溶け込むかのように

わかりやすい彼らの言葉の数々。

それと共に、長倉さんの写した老若男女の活き活きとした表情が、

自然と生きる人々の瑞々しい生き様を、

これでもかというほど強烈に証明しています。

旅が進むにつれ、長倉さん自身の心境の変化が

正直に綴られているところにも私は感銘を受けました。

心に響いた箇所を抜粋し、何回かに分けて書いていきたいと思います。

ページを開いて早々、こんな言葉がありました。

(中略)『地上にやってくる時には物音をたてずに鳥のように静かに降りたち、やがて何の跡も残さず空に旅立っていくのだ』

出典:長倉洋海.『鳥のように、川のように 森の哲人アユトンとの旅』.第一章アユトン・クレナックとの出会い.徳間書店、1998、P.8.

これはインディオから観た独特な人生観だと私は思います。

音もたてず降り立つ

きょう偶然、まさに物音をたてずに静かに降り立つ鳥に出会いました。アオサギです。

田んぼを挟む水路の両脇の道を散歩していた時でした。

歩いてきた私に気づき、少し眠そうにおもむろに反応しながら

胸元の真っ白な長い毛を揺らし、ゆっくり大きく翼を広げて飛び立ち

数メートル先の畔道まで移動していきました。

目で追ってしまうほど優雅な所作だったので凝視していたら

脳内で予想するよりはるかに何テンポも遅く、ふんわりと着地したのでした。

比較的大きな体と羽を持つアオサギでも、重力を感じさせない見事な柔らかい着地。

長細い足も相まって、スローテンポに見えたかもしれませんが、

大きな体の身軽さを目の当たりにして、知っている鳥に新たな感覚をもらって

数秒の出来事が一日を満たしたような気分なりました。

インディオの言葉をアオサギがお手本となってみせてくれたのでした。

人間に羽はありませんが、地球に寄り添い優しく触れることができる、

そんなふうに受け取らせて頂きました。

立つ鳥跡を濁さず

先ほどのインディオの言葉の後半は、まるであのことわざですね。

立つ鳥跡を濁さず。

引き際は潔く、という意味合いですね。

地球の裏側で似た表現を持ってるのは興味深いです。

潔さ。これを美しいと感じる感覚は、日本では馴染があるのではないでしょうか。

このことわざは母がよく言っていたので、私は自然に覚えました。

小さなころは、ことわざの深い意味も自身の心をみる概念も悲しいかな分かりませんでしたので

借りた場所や空間は、来た時のままの状態で去ろうという意識が身に付いたように思います。

特に自然が好きな私は、

汚したくない気持ちや尊重したい気持ちを強く持っています。

ハイキング中に見つけた誰かのごみを持って山を降りた時期もありました。

ところがあまりに極端になって、人間への不信感で本質がみえなくなると、

身から出た錆になってしまいますからバランスが大事なんですね。

それには疑問を整理できるような情報収集と、

その過程で白黒つけ過ぎない柔軟さが大切のように感じます。

本心や感情を無理やり捻じ曲げ、

美徳と世間で称賛される「形」に寄せて形の正しさに縋る儚さ、脆さも実感してきました。

だからこそ「見えない部分」での立つ鳥跡を濁さず、が大事だと思うのです。

具体的にどういうことかというと、

誰ともたたかわない世界という概念を、まず受け止めてみる。

今の私はそう表現したいと思います。

私の経験の例で言うと、自然を汚さない意図がこだわりへ変化し、

延々と汚れに目がいく世界をつくりだしていたかもしれないのです。

鳥は濁さない形をよしとしているのでなく、結果的に跡を濁すことを自然にしないのです。

人は行き詰って見えない荷物と対峙します。

ただ見えないものを捉えるのに慣れていないとかなりイライラしちゃいますね、人間ですので。

でもその延長上に「立つ鳥跡を濁さず」という自然のプログラミングが発動されるのかもしれません。

潔さ。そもそも潔く居たいかどうか、何のためにそうしたいか。

立つ鳥跡を濁さず。今の私も考えさせられることわざです。

鳥の原動力は「飛び立ちたい」「離れたい」でしょうか。

潔くなろうという決断も、

飛び立つ前の既に潔い感情も、味わう余裕がもてたら楽しそうです。

それにしても、身近な鳥の鷹揚な姿はなぜこんなに魅力的なのかと

瞳が捉えているうちは冒険が続くのかもと思ったりしています。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

次回に続きます。

タイトルとURLをコピーしました