本のご紹介の続きです。(前回の記事はこちら)
○著 者:長倉洋海
○題 名:『鳥のように、川のように 森の哲人アユトンとの旅』
○出版社:徳間書店
○発売日:1998.10
長倉さんとアユトンさんが訪れているヤノマミ族でも、祭りは賑やかに開催されます。
少なくとも10日は行われ(!)て、
誰がいつ来てもいいし、いつ帰ってもいいゆるい雰囲気です。
老若男女も自然も。持っている権利
祭りの参加が男女一緒の種族もあれば、別々の種族もあると気づいた長倉さんは
男女間の違いについて彼らがどんな認識を持っているのかアユトンさんに聞きます。
アユトンさんによると、男女それぞれに特徴があって受け持つ得意な範囲があり、
インディオの伝統では女性は”家の柱”として、
とても尊敬される存在とされているそうです。
続けて、アユトンさん節炸裂の言葉で、近代が抱える問題を危惧していました。
伝統の中では若さで支配しようとする青年の衝動は社会機構でコントロールされています。そこでは、女も支配者であり権力があるのです。自然の権力があるのです。若者であっても一人で森の中で生きられません。森や砂漠で生きるには伝統知識を受け継ぐ必要があります。
出典:長倉洋海.『鳥のように、川のように 森の哲人アユトンとの旅』.第三章ヤノマミの地へ.徳間書店、1998、P.142.
文字だけだとものすごく固い表現かもしれませんが、
アユトンさんの伝えたいことは私はなんとなく理解できるような気がしました。
このなかで、「コントロール」という言葉が出てきてなんだか窮屈かもしれませんが、
これはかなり大袈裟に表現しているだけで、
きっと本当に彼が言いたいことは、
例えるなら、自然の秩序や宇宙の道理の中で生きるしかない
普遍的な人間の姿を認識してほしいという事だと思いました。
つまりどんなに青年が支配的な欲にとりつかれたとしても、
伝統の中(インディオで具体的にいうなら森の中)で生きるなら、
宇宙の摂理という社会機構に沿って生きるのが
人として幸福感を感じられるのでは、ということです。
そのあとに、”女も支配者”と言っていますが、
これはこの話の前に、近代の男性優位で女性本来の特徴が生かされていないシステムに
疑問を呈していたから、このような強い語気になったのだと思います。
”権力がある”というのは、
女性にも本来素晴らしい力があり人権がある、ということを主張したいのだと察します。
失われてしまった何かを本来の位置へ戻したいという強い思いなのかもしれません。
世界各地を旅して、異なる文化や文明に触れてきたアユトンさん。そのうえで、
男女が本来の位置で本来の機能が発揮されているインディオの社会が好きだから、
このように発言しているのだと思います。
”自然の権力がある”というのも、
自然を自分の親や兄弟のように親しんできた
インディオならではの心からの叫びに聞こえました。
”若者であっても一人では生きられません”という言葉は、
それはインディオであっても、どんな文明をもっていても、同じことが言えるんですね。
生きる長さがあれば、楽しくいきれるかというと違うということです。
アユトンさんの言うように”伝統知識”を、どこかで誰かが受け継がれることが
大切なのではと私も思いました。
青年にお説教するつもりありません(笑)
いろんな世界を見聞きし、取り入れたり間違えたり修正したり、
沢山の経験をするのは素晴らしいですし、
恐れを知らないからこそ、突き進んで
自分で行ってみた世界は、とても貴重で財産そのものになると思います。
しかし、
もし現実がどうにも立ち行かない状態になった、そんな時には・・・
アユトンさんの言葉を思い出してみるのも、突破口のヒントになるかもしれません。
女性が大事だと言うのは、
女性の方が偉くて正しいと言いたいわけではなく、
伝統が大事だというのも、
単に、古い価値観だけが正しいと言っているのではないのだと思います。
ものすごく離れてみてはじめてわかることもあるので、
一概には言えませんが、
たくさんの自分の「決めつけ」や
「あきらめ」や「見限りたいきもち」と向き合うことも、
素晴らしい行為だと私は思います。(その時は情けない行為としか見えなくてもです)
その先には必ず、
女性を大切にしたい気持ちや、
先人たちの生き抜いた誇りを感じたい気持ちが
いつでも待っているのではないのでしょうか。私はそんな気がします。
”若さで支配しようとする青年の衝動”が理解できる経験があるからです。
ですが、
ここまで感想を言っておいてなんですが
結局は、アユトンさんの言葉をスルーしてもいいんです。
自分を頼りにするのが、
一番納得できるのではないのでしょうか。
それにしても、本当にアユトンさんは自身の事も世界の風潮のことも、
的確にとらえて独特な表現をなさるなぁ、すごいなぁと毎回舌を巻いています。
今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
次回に続きます。